カンファレンスやワークショップで、議論の内容がリアルタイムにイラストや図でまとめられていく「グラレコ(グラフィックレコーディング)」。
最近ではビジネスの現場でも見かける機会が増え、その効果を実感している方も多いのではないでしょうか。
しかし、私たちが知っている「グラレコ」は、グラレコ界のほんの一部にすぎないようです。
グラフィックを使った場づくりの世界には、目的や手法がまったく異なる“いくつかの流派”が存在します。
この記事では、第一線で活躍するプロのグラフィックファシリテーターであり、イマココメンバーのみっきーとの対話をもとに、「グラフィックファシリテーション」の奥深い世界を紐解きます。
あなたのチームや会議に本当に必要なのは、どのタイプのアプローチか――そのヒントがここにあります。
グラフィックの「二大流派」を知る
― 解決したいのは、ビジネスの問題か? 人の問題か?
グラフィックファシリテーションの世界には大きな分岐点があります。それは「ビジネス寄り」か「関係性寄り」かという軸です。
- ビジネス寄り
計画立案や戦略定義、会議の生産性向上など、明確な成果を出すことを目的とする。 - 関係性寄り
信頼関係の醸成やチームの一体感を育み、人間関係から変化を起こすことを目的とする。
どちらを重視するかによって、アプローチや描かれるビジュアルの意味がまったく異なります。
成果を導く実践派 ―「ビジネス寄り」の流派
「ビジネス寄り」の流派は、会議で共有された事実や決定事項(=コンセンサス・リアリティ)を整理し、次に取るべきアクションを明確にする実用的アプローチを取ります。
この領域では、グラフィックレコーディングの基礎を築いた清水純子氏、
富士通でデザイン思考を推進するタムラカイ氏などが代表的な存在です。
こんな人におすすめ:
- 会議を効率的・生産的にしたいチーム
- 多様な意見を整理し、明確な結論を導きたいリーダー
- ファシリテーションの基本スキルを高めたいビジネスパーソン
チームの深層に潜る共感派たち ―「関係性寄り」の流派
一方、「関係性寄り」の流派は、議論の裏にある“まだ言葉になっていない感情”や“個々の願い”に焦点を当てます。
メンバー同士の理解や信頼を深め、対立を超えた協働を生み出すことを目指すのが関係性寄りの流派の特徴です。
このアプローチを代表するのは、組織開発の分野で活躍する山田夏子氏や、
「グラフィックファシリテーション®」の商標を持つ山崎由美子氏など。
また、U理論をベースに活動するケルビー・バード氏も、この系譜に連なる実践者といえるとみっきーは感じているそうです。
こんな人におすすめ:
- 信頼関係の再構築が課題となっているチーム
- 共通のビジョンを“腹落ち感”を持って共有したい組織
- 「何を」決めるかと同じくらい「どう決めるか」を重視するリーダー
注意:この手法は、論理一辺倒の組織文化とは相性が悪い場合があります。
“人間の関係性なんて関係ない”というマインドセットの場合、その本質に触れることは難しいでしょう。
「描く人」は記録者か、共創者か
― グラフィックレコーダーとファシリテーターの違い
- グラフィックレコーダー:議論に介入せず、内容をビジュアルで記録する中立的立場。
- グラフィックファシリテーター:ビジュアルを使って議論を導き、合意形成を支援する立場。
同じ「描く」でも関与度合いが大きく異なり、前者は議事録的な役割、後者は“場を動かす”実践者としての役割を担います。、「レコーダーはファシリテーションをしていない」と位置づけられるほどの差があります。
学びの道筋 ― どこから始めるべきか?
ビジネスパーソンが学ぶ場合は、まずは「ビジネス寄り」のアプローチから始めるのが堅実です。
いきなり議論を導くよりも、まず「正確に記録する」スキルを磨くことで、場を俯瞰する力が養われます。
その上で、チームの関係性を扱う「関係性寄り」や、より高度な「ファシリテーション」へとステップアップしていくのが理想的です。
イマココメンバーのみっきーは、どの領域にいるのか?
今回話を伺ったみっきーは、自身を「ビジネス寄りのファシリテーター」と位置づけつつ、
同時に「この二次元の地図では説明しきれない領域がある」と話します。
それが、“Z軸”と呼ばれる次元です。
まだ言葉になっていないチームの本当の願いや、顕在化していない可能性を掬い上げる力。
まるで、未来を描き出す“予兆の可視化”のようなものです。
その場に現れる願いや、まだ表に出ていない大切なものをホワイトボードに描く。
誰も発言していないのに、場の“本当の声”がポンと浮かび上がる――。
次回は、みっきーがグラレコを通して具体的に何をしているのかを、さらに深掘りしていきます。