大手金融機関で実際に行われた、サステナビリティ/DE&Iレポート制作プロジェクト。「社長も大絶賛!」というレポートの成功の鍵は、“漫画”という新しい表現への挑戦と、短期間でチームの創造性を引き出した3つの実践メソッドにありました。
「文字だらけのレポートを誰も読まない…」大手金融が抱える現実
大手金融機関のダイバーシティ推進室では、毎年のDE&Iレポート作成が恒例の業務。しかし、文字中心の硬いレポートは社内でもほとんど読まれず、「もっと多くの人に興味を持ってもらいたい」「新しい表現に挑戦したい」というお悩みの声がありました。
みっきー 一生懸命作っても、本当に興味がある人しか見ていないという状況を変えるため、興味関心を持ってもらうには漫画が有効ではないか?というアイデアから、今回のプロジェクトはスタートしました。
いな 実際に出来上がったものを見てみると、レポートらしくきっちり書かれている部分と、その中でフッと、トーンの違う漫画が入ってくることによって、受け取り手の印象は全然違うように感じました。
硬派な大手金融が漫画で勝負!業務を変える“大胆な挑戦”
完成した漫画には、「読み手に気づきを与える妖精トイトイ」というキャラクターが登場。このトイトイが、働き方や無意識のバイアス(アンコンシャスバイアス)に気づきを与える問いを投げかける設定です。


みっきー これらの漫画を2か月で製作するというタイトなスケジュールを、いかに楽しく、これまでとは違うやり方で完成させるか?ということを意図して、今回はプロセス自体を大きく変えるのではなく、ミーティングの進め方に工夫を取り入れました。
いつもの仕事を「創造的」に変えた制作ミーティングの裏側
通常のレポート作成のプロセスは、与件整理→初回ミーティング→企画構成→シナリオ作成→作画/デザイン→校正→完成という、定型的な流れをたどります。

しかし、時間がない中でこの流れに囚われると、「あるあるのお悩み」にぶつかってしまいます。
制作現場でよく起きる「あるあるのお悩み」
- 初回ミーティングで発想が広がらない
- 制作会社との意図のズレ
- 修正回数が重なって結局自分たちで作り直す
- 上司に説明する際に苦労する…など
そこで、今回はプロセス自体を大きく変えるのではなく、ミーティングの進め方に“創造性を育てる仕掛け”を入れることにしました。

初回ミーティング
関係性を耕す ― 創造性の土台づくり
初回のミーティングでは、すぐに本題に入るのではなく、「お互いの人となりや思いを聞き合い、関係性を耕す」ことにフォーカスしました。人としての思いや価値観を共有することで、役割を超えた本音の言葉が出やすくなり、案件の本質的な部分に触れることができます。
安心して「飛べる」土台を作る(20分)
- 予算、スケジュール、進め方を最初に明確化
- 飛ぶためのジャンプ台として、盤石のプロマネを敷く

みっきー 発想したり、一見無駄かもしれない話をするには、盤石としたプロマネ(プロジェクトマネジメント)があって初めて、みんなが安心して飛べるんです。スケジュールを制するものはクリエイティブを制するという言葉がありますが、発想をするためのジャンプ台として、プロマネは非常に重要です。
好奇心と探求心のアクティベート(40分)
- 会話をリアルタイムで可視化するグラレコを実施
- 「DE&Iを日常でどう感じているか?」の問いを共有

みっきー 要件やゴールを聞くのはもちろんですが、その奥にある「この人(お客様)はどんな人なんだろう?」「どんな思いでこの仕事をしようとしているんだろう?」という個人の思いに興味があったんです。せっかく一緒にやるなら『この仕事を一緒にできて良かった』と思える関係をつくりたいという思いがありました。
企画構成、シナリオ設定ミーティング
場所と問いを変えたブレインストーミング
企画構成・シナリオ設定の段階で、私たちはあえて“環境”を変えました。効率を重視すれば、会議はクライアント企業の会議室で行うのが自然です。しかし、それでは参加者が 「会社の役割」から抜け出しにくい という課題があります。そこで2回目のミーティングは、思い切ってイマココラボのワークショップスペースへ。
「DE&Iレポートを読んでもらった後にどんな気持ちになって欲しい?」
という問いで行ったブレストミーティングでは、自身の家庭でのあるあるや本音も共有し合ったことで、「ライオン(コジコジのような)キャラクターが、本質的な問いをポッと呟く」というアイデアが生まれました。これが、読み手に気づきを与える妖精「トイトイ」の誕生のきっかけとなり、プロジェクトが一気に加速しました。
いな 役割の垣根を越えて、個人としての意見を出し合った結果、「読み手の人に自分ごとになって欲しい」「説教っぽくならないように伝えたい」「無意識のバイアス(アンコンシャスバイアス)に気づくきっかけを与えたい」といった本質的な言葉がたくさん出てきました。

チームの創造性を引き出す、3つの実践メソッド
2か月という短期間の漫画レポート制作の成功のカギは、チームの創造性を引き出すために意図的に取り入れた3つの工夫でした。

1. 好奇心と探求心のアクティベート
役割や会社のゴールだけでなく、自分自身の内側にある思いに火をつける問いかけで仕事を自分ゴト化します。
もしこの仕事が人生の冒険の一部だとしたら?
- 会社として達成しなくてはならないゴールは何か?
- あなた自身は、この仕事を通じてどんなメッセージを投げかけたいか?
- 相手にはどんな気持ちになってほしいか?
- 私自身、このテーマに何を感じているのだろうか?
- 私が人生で大切にしたいことは何だろう?
いな 役割の枠を超えることで、個人の願いと仕事にブリッジがかかります。その結果、こなすだけの仕事が楽しくなったり、上司から見ても成長したと感じられる結果に繋がったのだと思います。
2. 斜め上の発想を引き出す問い―「本当にそうかな?」を大事にする
日常の常識や視点からあえて軸をずらすことで、新しい発想を引き出します。
- 時間・場所・人生の軸をずらす
- 2050年のビジネスパーソンだったら、この問題をどう感じるか?
- フランス人として見たらどうだろう?
- あと1年しか生きられないとしたら、どうだろう?
- 他者の視点になる
- たまたま目の前を歩いていた人だったら、どう感じるか?
- テレビで見たあの人(自分とは違う人)だったら、どんな風にこれを見るか?
- 尊敬する上司や、ものの見方が違う部下だったら、どう考えるか?
いな 問いを使って意図的に視座を変えることで、普段とは違う発想をし、答えを導き出すことができます。
3. 盤石のプロジェクトマネジメント
クリエイティブな発想をするための「余白」を意図的にスケジュールに組み込みます。
- 安心できる余白をデザインする
タイトなスケジュールであっても、「ここは発想できる時間だ」と意識しながらプロセスをデザインする。 - To Doで埋めるのではなく、余白を先に確保する。
みっきー 私たち自身も、お客様との仕事に向かう前に、「仕事ってそもそも何?」「このチームでこういう仕事やっていきたいね」という問いを立て、ゲラゲラ笑いながら仕事したいという思いをチューニングしてから関わるようにしています。仕事の成果を出すことはもちろん大事ですが、個人として何があるのか、人として関わることで、仕事はさらに豊かになっていきます。
仕事を創造的に変える学びと行動へのヒント
漫画レポートのプロジェクトは、単なる制作デザインの工夫ではなく、チームの関係性、発想の質、心理的安全性を意識した取り組みでした。その結果、社内外で高い評価を獲得するだけでなく、クライアント自身のモチベーション向上にも繋がったという嬉しい声をいただきました。
- 社長が大絶賛し、社内での評価が非常に高かった。
- アンケート回答の約9割が「大変参考になった」「参考になった」というポジティブな回答。
- 上司からの手直し(直し)は、ほぼゼロ。
- 一緒に作るプロセスに参加したことで、結果的に効率が良かったという評価。
- クライアントからは「論理の積み上げだけではない、非連続な発想が生まれるのが面白かった」という声や、「部下が仕事が楽しいというようになりました」という感謝の声まで届いた。
目の前の業務を「こなす仕事」ではなく、自分の創造性を発揮できる冒険の場として捉えること。それが、漫画レポートという形で形になり、チームと組織に新しい価値を生み出しました。
今日からでもできる小さな一歩として、問いを立てる・視点を変える・発想の余白を意識する。この3つを意識するだけで、いつもの仕事もぐっと創造的なものに変わるはずです。
この記事のスピーカー
- 長縄 美紀(みっきー):クリエイティブディレクター
- 稲村 健夫(いな) :イマココラボ 共同代表
※この記事は、2025年11月7日(金)に実施したオンラインセミナーを再構成したものです。