大手金融機関で実際に行われた、サステナビリティ/DE&Iレポート制作プロジェクト。その成功の鍵となった、“漫画”という新しい表現への挑戦と、チームの創造性を引き出す3つの実践メソッドを紹介します。
登壇者
- 藤本 海(かい): ファシリテーター
- 長縄 美紀(みっきー):クリエイティブディレクター
- 稲村 健夫(いな):イマココラボ 共同代表
※この記事は、2025年11月7日(金)に実施されたオンラインセミナーを再構成したものです。
登壇者の発言を中心に、当日のエッセンスをお届けします。

マンネリを打ち破る!タイトな2ヶ月で「漫画」にチャレンジした理由
かい 皆さん、こんにちは!ファシリテーターの藤本海です。今回のセミナーでは、サステナビリティ(持続可能性)や DE&I(ダイバーシティ&インクルージョン:多様性と受容)といった重要なテーマを、どのようにクリエイティブに、そして楽しく、仕事のクオリティを上げながら実現していくか、その具体的な事例をご紹介していきます。
今回のテーマは「いつもの仕事を創造的な仕事に変える 3 つの実践的メソッド」です。大手金融機関におけるダイバーシティレポート制作事例を通じて、その秘訣を、実際に案件をリードしたみっきーと、伴走した共同代表のいなさんと共に深掘りしていきます。
案件概要:大手金融機関のDE&Iレポートを「2ヶ月」で制作
みっきー クライアントは大手金融内の証券会社の一部門にあるダイバーシティ推進室でした。彼らの「ダイバーシティレポート」の作成をお手伝いすることになったのですが、実質納期まで2ヶ月という、かなりタイトなスケジュールでした。
ご相談の背景には、「DE&Iの取り組みをレポートにまとめ、社内外に発信しているが、もっと興味関心を持つ人を増やしたい」という強い思いがありました。
かい なるほど。大企業では特に、時代の潮流に合わせて情報をまとめ、責任を果たすために情報を伝えなきゃいけないという「マスト」の仕事がありますよね。でも「うちの会社も一緒じゃないか」と、上から分かるけど…というお悩みはよく聞きます。
みっきー まさにそうなんです。毎年新しいことをしたいけれども、発信期日も決まっているので、「結局いつものやり方になっちゃうんだよね」というお悩みの声がありました。
そこで今回、私たちがチャレンジしてみたのは、なんと……漫画です!
かい おお、漫画にチャレンジ!
みっきー 一生懸命作っても、社内の人ですら「文字が多くて…」と、本当に興味がある人しか見ていないという状況を変えるため、何か新しい取り組みをしたいとお声がけいただきました。もっと多くの人に広げたいと考えたとき、興味関心を持ってもらうには漫画が有効ではないか?というアイデアから、今回のプロジェクトはスタートしました。
実際に完成したレポートには、硬い制度や取り組みの紹介のページの後に、読んだ人に「あれ?」という気づきを与えるような漫画が差し挟まれています。
いな 実際に出来上がったものを見てみると、レポートらしくきっちり書かれている部分と、その中でフッと、トーンの違う漫画が入ってくることによって、受け取り手の印象は全然違うと感じましたね。
完成した漫画には、「読み手に気づきを与える妖精トイトイ」というキャラクターが登場しました。このトイトイが、働き方や無意識のバイアス(アンコンシャスバイアス)に気づきを与える問いを投げかける設定です。
かい なるほど。これを2ヶ月でやりきった秘密を、次のセッションでぜひ聞かせてもらいたいですね。
いつもの仕事を「創造的」に変えた3つのミーティングの工夫
みっきー 通常、レポート作成のプロセスは、要件整理、初回ミーティング、企画構成、シナリオ作成、デザイン、校正、完成というオーソドックスな流れをたどります。

しかし、時間がない中でこの流れに囚われると、初回ミーティングで発想が広がらない、外注(制作会社)との意図がずれる、修正回数が重なって結局自分たちで作り直す、そして最後に上司に共有するときに大変になる、といった「あるあるなお悩み」が発生しがちです。
そこで、今回はプロセス自体を大きく変えるのではなく、ミーティングの進め方に工夫を取り入れました。
1. 初回ミーティングの工夫:仕事ではなく「人」にフォーカスする
みっきー 初回のミーティングで、私たちはまず「お互いの人となりや思いを聞き合い、関係性を耕す」ことから始めました。要件やゴールを聞くのはもちろんですが、その奥にある「この人(お客様)はどんな人なんだろう?」「どんな思いでこの仕事をしようとしているんだろう?」という個人の思いに興味があったんです。
せっかくやるのであれば、「お互い良かったね、一緒に仕事してよかったね」と思えるような、かけがえのない仕事にしたい、という思いがありました。
かい 「聞きたくてしょうがなかった」という熱量がすごいですね。
みっきー 人として、存在と存在としてやりましょう、というスタンスですね。そのために、初回ミーティングではもう一つ工夫をしました。

【好奇心と探求心のアクティベート:グラレコの活用】
会議の場で、模造紙に会話をリアルタイムで書き起こし、見える化する、グラフィックレコーディング(グラレコ)を実施しました。
いな グラレコを通じて、参加者が「DE&Iというテーマに対して、自分自身は何を感じて日々生活しているのか?」といった、普段立ち止まって考えないような問いに対して、素直に自分のリアリティや本音を共有していきました。仕事の役割を超えて、本当の好奇心や探求心をアクティベート(活性化)できたのが大きいです。
みっきー この対話に、実は初回の1時間ミーティングのうち、40分ほど時間を割きました。

2. 安心して「飛べる」土台を作る:盤石のプロマネ
みっきー しかし、ただ対話に時間を割くだけでは「本題は?」と不安になりますよね。だからこそ、発想を飛ばす前に、通常の予算、スケジュール、進め方をしっかりと確認するパートを冒頭20分間でやりました。
発想したり、一見無駄かもしれない話をするには、盤石としたプロジェクトマネジメント(プロマネ)があって初めて、みんなが安心して飛べるんです。
かい なるほど!スケジュールが見えないのに色々と聞かれても不安になりますが、ちゃんと「こういう風に進められるから、今日はここに時間かけることができますよ」と伝えることで、クリエイティブに発想できるスペースを作ったわけですね。
みっきー はい。スケジュールを制するものはクリエイティブを制するという言葉がありますが、発想をするためのジャンプ台として、プロマネは非常に重要です。

3. 場所と問いを変えて、発想を非連続にする
みっきー さらに2回目のミーティングでは、「お誘いと宿題」を出しました。
【お誘いと宿題】
- お誘い: 次回のミーティングを、お客様のオフィスではなく、イマココラボのワークショップスペースに来て行いませんか?
- 宿題: 次回は「どんな風なことを伝えたいのか」をテーマに話すので、考えを巡らせておいてください。

みっきー 効率を重視すると、自分の会社の中で会議をやるのが当たり前になりますが、あえて「役割から一旦離れやすい場所」で発想しませんか、と提案したんです。
この場所を変えたブレストミーティングでは、「読んでもらった後にどんな気持ちになって欲しいか?」という問いを立てました。
いな その結果、「読み手の人に自分ごとになって欲しい」「説教っぽくならないように伝えたい」「無意識のバイアス(アンコンシャスバイアス)に気づくきっかけを与えたい」といった本質的な言葉がたくさん出てきました。
また、この場で私たち自身の家庭でのあるあるや本音も共有し合ったことで、「ライオン(コジコジのような)キャラクターが、本質的な問いをポッと呟く」というアイデアが生まれました。これが、読み手に気づきを与える妖精「トイトイ」の誕生につながったのです。

成果:社長が大絶賛、部下のモチベーション向上まで実現
このクリエイティブなプロセスを経た結果、予想を上回る成果が出ました。
- 社長が大絶賛し、社内での評価が非常に高かった。
- アンケート回答の約9割が「大変参考になった」「参考になった」というポジティブな回答。
- フリーコメントで「漫画がすごく分かりやすかった」という声が多数。
- 上司からの手直し(直し)は、ほぼゼロ。
- 一緒に作ったプロセスに参加したことで、結果的に効率が良かったという評価。
- クライアントからは「論理の積み上げだけではない、非連続な発想が生まれるのが面白かった」という声や、「部下が仕事が楽しいというようになりました」という感謝の声まで届いた。
いな こなす仕事ではなく、本当にしっかりやり込んだ仕事だったからこそ、当事者が楽しかったり、上司から見ても成長したと感じられる結果になったのだと思います。
学びとアクション:いつもの仕事を創造的にする3つの実践メソッド
この事例から導き出された、目の前の仕事を創造的な仕事に変えるための実践メソッドを3つご紹介します。
1. 好奇心と探求心のアクティベート
役割や会社のゴールだけでなく、自分自身の内側にある思いに火をつける問いかけをします。
もしこの仕事が人生の冒険の一部だとしたら?
- 会社として達成しなくてはならないゴールは何か?(役割)
- あなた自身は、この仕事を通じてどんなメッセージを投げかけたいか?
- 相手にはどんな気持ちになってほしいか?
- 私自身、このテーマに何を感じているのだろうか?
- 私が人生で大切にしたいことは何だろう?(人生の軸)

2. 斜め上の発想を引き出す問い
日常の常識や視点からあえて軸をずらし、新しい発想を引き出します。
「本当にそうかな?」を大事にする
- 時間・場所・人生の軸をずらす:
- 2050年のビジネスパーソンだったら、この問題をどう感じるか?
- フランス人として見たらどうだろう?
- あと1年しか生きられないとしたら、どうだろう?
- 他者の視点になる:
- たまたま目の前を歩いていた人だったら、どう感じるか?
- テレビで見たあの人(自分とは違う人)だったら、どんな風にこれを見るか?
- 尊敬する上司や、ものの見方が違う部下だったら、どう考えるか?
いな 問いを使って意図的に視座を変えることで、普段とは違う発想をし、答えを導き出すことができます。

3. 盤石のプロジェクトマネジメント
クリエイティブな発想をするための「余白」を意図的にスケジュールに組み込みます。
- 安心できる余白をデザインする: タイトなスケジュールであっても、「ここは発想できる時間だ」と意識しながらプロセスをデザインする。
- To Doで埋めるのではなく、余白を先に確保する。
みっきー 私たち自身も、お客様との仕事に向かう前に、「仕事ってそもそも何?」「このチームでこういう仕事やっていきたいね」という問いを立て、ゲラゲラ笑いながら仕事したいという思いをチューニングしてから関わるようにしています。
仕事の成果を出すことはもちろん大事ですが、個人として何があるのか、人として関わることで、仕事はさらに豊かになっていきます。

読者の皆様へ:最後に持ち帰ってほしいこと
今回のプロジェクト成功の秘訣は、単に「漫画」という奇抜なアイデアを使ったことではありませんでした。人として向き合い、好奇心と探求心をアクティベートする対話を、盤石なプロマネという安心できる土台の上で行い、発想の余白をデザインしたことです。
忙しい日々の中で「いつもの仕事」になってしまいがちな業務も、今日学んだ3つのメソッド(好奇心、斜め上の問い、余白のあるプロマネ)を意識して、ぜひ明日からチャレンジしてみてください。目の前の仕事が、きっとあなた自身の「冒険」の一部に変わっていくはずです。
【参加者特典のお知らせ】 ※要確認
今回お話しした「好奇心と探求心のアクティベート」を体験できる、通常3万円の「組織/個人のグラフィックレコーディングセッション(90分間)」を、今回無料でご提供いただけます。個人として仕事のテーマを捉え直したい方、チームで新しい発想を引き出したい方は、ぜひこの機会にご利用ください。