会社の経営には、さまざまなフェイズがあります。
立ち上げ期に事業を確立しようと必死になるときもあれば、老舗企業が縮む市場の中でどう売上を維持するかに悩むときもある。
いずれにしても、打ち手は多岐にわたります。
売上を伸ばすための商品改良や販売強化。
事業を拡大するための新しいチャレンジ。
あるいは、人のスキル育成や採用、マネジメントのアップデート、組織体制の刷新。
さらに理念やビジョンをもう一度見直し、浸透をはかる動きもあるでしょう。
経営層が向き合う課題は尽きません。
そして、そのどれもが「必要」なのです。

だからこそ──「どこから手をつければいいのか」という問いに直面することになります。
そんなときに役立つのが、今回紹介する「企業活動の4象限モデル」です。
よくある行き詰まり
現場を見ていると、こんな壁にぶつかることはありませんか?
- 次世代リーダーを育成しても、自ら判断して動ける段階に至らない
- 中堅層が弱く、若手を支える力が足りない
- ビジョンを発表しても、社内に「自分ごと」として浸透しない
- スキル研修を重ねても、現場での成果が頭打ちになる
- 社会に発信しても、表面的に響くだけで本当の共感を得られない
- 新規事業の構想は出るが、既存発想の延長を超えられない
- 経営トップが細部まで見なければならず、任せられる人材が育っていない
- シニアマネージャー層が「戦略をつくれる人」ではなく「戦略を実行する人」にとどまっている
- 新しい人材を迎えても、組織文化に馴染ませ活かすことができず、力不足感や早期離脱につながる
- 部門ごとに優先課題を掲げても、全社的な方向性と噛み合わない
- デジタル化やDXの掛け声はあっても、文化や価値観の変革に結びつかない
- 過去に取り組んだ施策と同じ壁に、数年後またぶつかっている
これらは、多くの場合「どこか一つの領域だけ」で解決しようとした結果です。 企業の成長は、部分的な強化ではうまくいかない。 全体を連動させてとらえる視点が必要なのです。
4象限モデルとは?
このモデルは、企業活動を「個人と集合」「内面と外面」という2つの軸で整理したものです。

組み合わせると、4つの領域が現れます:
- 左上(個人×内側):個人の認知・感覚
- 右上(個人×外側):個人の行動・能力
- 左下(集合×内側):関係性・文化・価値観
- 右下(集合×外側):環境・構造・事業活動
このモデルの特徴:4つの領域は渦のように連動して進化する
どの領域も、お互いに連動しながら「段階」を経て深まっていきます。
たとえば右上(行動・能力)でスキルを磨くことは大切です。
しかし左上(認知・感覚)の内省が欠けると、どこかで成長が止まります。
同様に、右下(事業活動)の発信を強化しても、左下(文化・価値観)が弱ければ空回りします。
特定の領域だけが突出して進化することは、実際にはほとんどありません。
先行する領域が他の領域を引き上げたり、遅れている領域がブレーキになったりしながら、全体として次のステージへ進んでいくのです。
このモデルが役立つ場面
4象限モデルは、単なる理論ではなく、経営のリアルな意思決定に直結するフレームです。
経営層・リーダーにとって特に有効なのは、以下のような場面です。
〇事業成長の推進と営業体制の強化
- 「営業力をどう底上げするか」というテーマを、単なる人数やスキルの強化で終わらせない。
- 営業のやり方・顧客との関係性・組織としての学習を、4象限で捉えることで、短期成果と持続性の両立が可能に。
〇人材育成とリーダーシップ開発
- 単なる研修やOJTで終わらず、個人の内省・価値観と行動を結びつける。
- 「成果を出す人材」を超えて「組織を進化させる人材」を育てる。
〇組織文化と経営理念の浸透
- ミッション/ビジョン/バリューを生きたものにする
- お題目ではない実効文化が組織の内側(社内)にも、外側(顧客)にも響くブランディング、PR
〇新規事業開発・事業ポートフォリオ転換
- 「何をやるか」だけでなく「その事業は社会にとってどういう意味を持つか」を整理。
- 内側の価値観と外側の戦略を接続し、共感される事業を設計できる。
〇経営実行力と変革の推進
- 短期成果で終わらない、根本的変革
- 4象限で全体の渦を見渡すことで、経営実行の一貫性を確保できる。
おわりに:違和感を未来への問いに変える
企業活動を続けていると、ふと「このままでいいのか」という違和感に出会うことがあります。
それは停滞のサインであると同時に、次のステージへ進む兆しでもあります。
4象限モデルは、その違和感をより対話の土台に変えます。
「どの領域が先行しているのか」「どの領域が課題なのか」を整理することで、抽象的な理想論を、実際の戦略やアクションに落とし込む。
そうした直近の課題への対応もクリアに見えますし、より根源的な問い(例えば「なぜ企業を経営しているのか」など)への扉を開くこともできます。
企業は単なる経済装置ではなく、ひとつの生命体のように進化し続けます。
内と外、個と集合が渦を巻くように響き合うとき、企業は売上以上の意味を持つ存在へと変わっていきます。
その変化を言葉にし、戦略にし、日々の実践に落とすためのレンズ──。
それが「企業活動の4象限モデル」です。